Web Sustainability Guidelines（WSG）1.0 の紹介

2023 年 8 月 30 日に、W3C のコミュニティグループによって Web Sustainability Guidelines（WSG）1.0 のドラフトが公開されました。

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ウェブアクセシビリティのガイドラインである WCAG にインスピレーションを受けており、ウェブサステナビリティにおける信頼できる情報源としての役割を目指しているようです。

実際、ウェブサステナビリティに関連する取り組みや技術は広範囲に及ぶため、このような包括的かつ体系的なガイドラインが存在することはとてもありがたく感じています。

なお、本ガイドラインは W3C 標準ではなく、勧告トラックの対象外ですのでご注意ください。

ガイドラインは、Sustainable Web Manifesto の 6 つの原則が基盤になっています。

1. Clean（クリーン）
2. Efficient（効率的）
3. Open（オープン）
4. Honest（誠実）
5. Regenerative（再生的）
6. Resilient（回復力）

現時点では、93 のガイドライン、232 の達成基準から成り立っており、ガイドラインは以下の 4 つのカテゴリに分類されています。

• User-Experience Design（UX デザイン）
• Web Development（ウェブ開発）
• Hosting, Infrastructure And Systems（ホスティング、インフラ、システム）
• Business Strategy And Product Management（ビジネス戦略とプロダクトマネジメント）

また、各ガイドラインでは以下のコンテンツを含んでいます。

• Guideline（ガイドラインの見出しと概要）
• Success Criterion（達成基準）
• Impact & Effort（影響度と労力）
• Benefits（利益）
• Reporting（GRI Standards¹）
• Example（例）
• Resources（参考文献）
• Tags（タグ）

適合レベルは、WCAG の「A」「AA」「AAA」とは異なり、Impact と Effort の 2 つの軸から、それぞれ「Low」「Medium」「High」の 3 段階で評価されています。

Benefits のセクションでは、各ガイドラインに取り組むことで期待される効果が言及されており、以下の分野が含まれています。

• Environmental（環境への影響）
• Accessibility（アクセシビリティ）
• Performance（パフォーマンス）
• Social Equity（社会的公正）
• Transparency（透明性）
• Privacy（プライバシー）
• Economic（経済性）
• Conversion（コンバージョン、SEO）
• Operations（運用）

参考文献まで含めると膨大な情報量ですが、見出しや概要を眺めるだけでもウェブサステナビリティで取り組むべき方針が把握できます。

UX デザインや、パフォーマンス、ウェブアクセシビリティに関するガイドラインは、各分野における現時点でのベストプラクティスを統合したような内容で比較的理解しやすく、すぐに実施できる内容も含まれています。

一方、ビジネス戦略とプロダクトマネジメントに関するガイドラインは、制作現場の枠にはとどまらず、より広範に意思決定層を巻き込む傾向にあり、場合によっては組織や事業レベルでの方針転換が必要になります。

このように短期的には達成するのが難しい基準も多く含まれますが、まずはウェブサステナビリティの概念を理解することが重要だと考えています。

以下、機械翻訳の力を借りながらですが、ガイドラインの見出しの日本語訳を列挙します。意訳や補足を含みますので、もし、誤りがあればご指摘いただけると助かります。

2. UX デザイン

• 2.1システムに関する影響のマッピング
• 2.2訪問者のニーズを評価・調査
• 2.3訪問者以外のニーズを調査
• 2.4初期段階でサステナビリティを考慮する
• 2.5ステークホルダーの問題を考慮する
• 2.6デフォルトで摩擦のない軽量な体験をつくる
• 2.7不必要なアセット、過剰なアセットを避ける
• 2.8ナビゲーションと経路が適切に構造化されていることを確認する
• 2.9訪問者の注意を尊重する
• 2.10認識しやすいデザインパターンを使用する
• 2.11ダークパターンを避ける
• 2.12プロジェクトの成果を文書化して共有する
• 2.13デザインシステムを使用してインタフェースの一貫性を優先する
• 2.14目的を持って、アクセスしやすく、理解しやすい形式で書く
• 2.15画像アセットにサステナブルなアプローチを採用する
• 2.16メディアアセット（動画や音声）にサステナブルなアプローチを採用する
• 2.17アニメーションにサステナブルなアプローチを採用する
• 2.18フォントにサステナブルなアプローチを採用する
• 2.19ウェブアセットの適切な代替手段を提供する
• 2.20アクセスしやすく、使いやすい、最小限のフォームを提供する
• 2.21視覚表現以外の方法でコンテンツの操作をサポートする
• 2.22訪問者の体験を向上させる有用な通知を提供する
• 2.23ダウンロード可能な文書、または物理的な文書の影響を軽減する
• 2.24ステークホルダーに焦点を当てた、テストとプロトタイピングの方針を作成する
• 2.25定期的な監査、回帰テスト、非回帰テストを実施する
• 2.26訪問者の行動のパフォーマンスを分析する
• 2.27各メジャーリリースのサイクルに価値テストを組み込む
• 2.28各マイナーリリースのサイクルにユーザビリティテストを組み込む
• 2.29各リリースサイクルに互換性テストを組み込む

3. ウェブ開発

• 3.1関連する技術指標の特定
• 3.2HTML、CSS、JavaScript の縮小
• 3.3コード分割を使用する
• 3.4コードに Tree Shaking を適用する
• 3.5アクセシビリティを確保する
• 3.6コードの重複を避ける
• 3.7サードパーティのサービスを厳密に評価する
• 3.8HTML 要素を正しく使用する
• 3.9レンダリングを妨げるコンテンツを解消する
• 3.10コードベースの経路探索メカニズムを提供する
• 3.11フォームエラーと入力内容の検証
• 3.12メタデータを正しく使用する
• 3.13CSS のプリファレンスクエリを使用する（例: prefers-reduced-motion）
• 3.14モバイルファーストレイアウトで開発する
• 3.15有益な JavaScript と API を使用する
• 3.16スクリプトが安全であることを確認する
• 3.17依存関係を適切に管理する
• 3.18自動的に認識されるファイルを含める（例: favicon.ico、robots.txt）
• 3.19適切な場合にはプレーンテキスト（.txt）を使用する
• 3.20非推奨または独自コードの使用を避ける
• 3.21技術要件とサステナビリティの目標を一致させる
• 3.22最新の安定した言語バージョンを使用する
• 3.23ネイティブ機能を活用する
• 3.24できるだけ少なく、シンプルなクエリを実行する

4. ホスティング、インフラ、システム

• 4.1サステナブルなホスティングプロバイダを選択する
• 4.2ブラウザキャッシュの最適化
• 4.3ファイルを圧縮する
• 4.4エラーページとリダイレクトを慎重に使用する
• 4.5追加の環境の使用を制限する（例: 未使用のテスト環境を廃止）
• 4.6ニーズに合わせて自動化する（例: ボット管理）
• 4.7更新頻度は訪問者のニーズに合わせる
• 4.8重複データに注意する
• 4.9非同期処理と通信を有効にする
• 4.10エッジコンピューティングを使用する
• 4.11ビジネス要件を満たす必要最低限のインフラを使用する
• 4.12訪問者のニーズに応じたデータの保存

5. ビジネス戦略とプロダクトマネジメント

• 5.1倫理的かつサステナブルな製品戦略を立てる
• 5.2サステナビリティの担当者を割り当てる
• 5.3意識を高めて情報を提供する
• 5.4ユーザの選択が環境に与える影響を伝える
• 5.5製品やサービスの環境への影響を見積もる
• 5.6組織のサステナビリティへの明確な目標と指標を定義する
• 5.7確立された第三者機関によるビジネス認証で取り組みを検証する
• 5.8サスティナビリティ研修を実施する
• 5.9開示とレポートの義務化
• 5.10一つ以上のインパクトのあるビジネスモデルをつくる
• 5.11製品管理とメンテナンスに関する戦略
• 5.12継続的改善プロセスの実施
• 5.13将来の更新と発展を文書化する
• 5.14デジタル製品やサービスの必要性を確認する
• 5.15機能単位（Functional Unit）を定める
• 5.16サプライヤー実施基準を作成する
• 5.17経済的利益の共有
• 5.18適切なステークホルダーと意思決定の権限を共有する
• 5.19JEDI（Justice, Equity, Diversity, Inclusion）プラクティスの活用
• 5.20責任あるデータ実務の推進
• 5.21適切なデータ管理手順の実施
• 5.22責任ある最先端テクノロジーの実践を推進（例: AI、IoT、ブロックチェーン）
• 5.23責任ある財務方針を盛り込む
• 5.24組織の慈善活動方針を盛り込む
• 5.25デジタル製品やサービスのケアと終了の計画を立てる（End-Of-Life）
• 5.26電子廃棄物（E-waste）、修理する権利（Right-to-repair）、リサイクルに関する方針を盛り込む
• 5.27パフォーマンス予算と環境予算を定義する
• 5.28オープンソースのツールを使用する

この記事では、Web Sustainability Guidelines（WSG）1.0 の概要について説明しました。

ガイドラインの基準を満たすことで、環境への影響を小さくできることはもちろんですが、ウェブサイトやアプリのユーザビリティやアクセシビリティ、コンバージョン、インフラのコストといった副次的な恩恵まで受けられるので、積極的に取り組むことが望まれます。

とはいえ、WCAG とは異なり、適合レベルへの準拠を表明するためにすべての基準を達成する必要はありませんし、当然ながらすべてを満たすことは不可能です。まずは自分になじみのある項目から取り入れていき、徐々に範囲を広げていくのがよいのではないかと考えています。

もし、何から始めればよいかがわからない場合には、以下の記事でウェブサイトを診断できるオンラインサービスを紹介していますので、こちらを試してみるとサステナビリティへの取り組みのヒントが得られるかもしれません。

• ウェブサイトの健康診断

• Introducing the Web Sustainability Guidelines | Mightybytes （外部リンクを開く）
• New Web Sustainability Guidelines Report | Sustainable Web Design Community Group （外部リンクを開く）
• Web Sustainability Guidelines (WSG) 1.0 （外部リンクを開く）

脚注

1. GRI Standards ↩